Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “熱中症にはご用心を” 


七月に入る前の六月下旬から既に、
各地で35℃以上の猛暑日となる、
途轍もなく暑い日々が続いており。
この夏もまた、
昨年並みに“猛暑”となるのは確実視されている。
気温が上がらず日照も覚束ぬ“冷夏”というのも、
稲や作物の育成を思えば避けたいものの、

 「今年は節電の夏でもあっからなぁ。」

なあなあ知ってるか?
エアコンって、
設定温度を上げて、その代わりに風量を“強”にすると、
不思議と節電になんだって。

 「風の冷たさを下げるためにかかる電力より、
  風の強弱へかかる電力の方がずんと低いらしくてさ。」

しかも、吹き付ける風の勢いがある分、
ずっと涼しいって体感するんだと、なんて。
さっそくにも大人ばりの蘊蓄をご披露くださったのは。
懸賞で当てたというハンディ扇風機(ソーラー蓄電式)を片手に、
足元を塗り潰す日陰の色も濃い、
風通しのいい木陰にベンチを出して陣取っていた、
子悪魔さんこと、蛭魔さんチの妖一坊っちゃんで。

 「何ぁ〜んか、そういう話はあちこちで聞くよな。」
 「さすがに“そういう夏”なんだって意識が強いんだろうさ。」

まだ序の口だってのにな、と、うんざりするお顔もいはするが、
この調子でいくと、
案外八月辺りには体の方で環境へ馴染んでたりしてななぞと、
豪気なことを言う顔触れもいたりするのは、他ならぬ。
賊徒学園高等部でも名のある暴れん坊たち、
賊学カメレオンズというアメフト部から
まんま大学部のフリルドリザードへ上がってきた猛者の面々で。
ダルイのタルイのと ぐでぐでしていると、
子悪魔様からどんな仕置きを受けるか判らんという夏を
幾たびも乗り越えて来たお陰様。
賊徒学園といや不良の巣窟…と思われている、
世間からの風評を大きく覆し、
3歩以上は駆け足で移動なんてのは基本中の基本。
ちょっとでも たりたりした態度をとったなら、
靴にタイマーつきの発火装置が仕掛けられたり、
ノルマをこなしてから座らないと尻に火がつくトレパンを履かされたり。
はたまた、ケータイに ややこしい請求メールが大量送付されたりという、
おっかないお仕置きが即座に襲うため。
気がつきゃ機動力も増しての夏ばて知らずな身へと、
知らぬ間に鍛え上げられていた彼らだったりし。

  ま、それはともかくとして。

春大会をまま何とか及第点の成績で終え、
そっちが本番、甲子園ボウルやライスボウルにつながる秋大会のため、
夏の暑ささえ特訓の負荷とし、
体力とタフな性根を身につけるのが夏休み…であるのだが。
この夏の暑さ加減は半端ではなく、
あちこちで例年通りのスポーツ関係の催しがある一方、
例年通りであるというに、
例年になく熱中症で倒れる高校生たちが多いという話もたんと聞く。

 「用心しても無駄なほど、
  とんでもない暑さだってことなんだろうな。」

ロードワークは午前中の涼しいうちにと、
これでもあれこれ気をつけてのこと、
夏合宿前のトレーニング前哨戦をこなしている面々で。
陽の強さが濃くなるにつれ、じわじわと気温も上がりつつある中、

 「今日は午後から
  プールでの水中ジョギングトレーニングだぞ」

いやっほいと喜ぶのは一回生部員のみ、

 「うあ…。」

あれって体力削られんだよな…と、
既に体験済みの上級生たちが しょっぱそうな顔になる。
たった1年でも年の差は年の差、
結構大きな差が出るのが学生時代であり。

 「年は取りたかねぇやな♪」
 「嬉しそうに言ってんじゃねぇよ。」

そういうおっかないトレーニングを組んだ張本人様、
妖一坊やの喜々としている無邪気な(?)お顔に、
先輩諸氏が忌々しげに言い返したところで、

 「…お。」

坊やのポッケから軽快なグラムロックが響き出し、
どこかからのお電話がかかって来た模様。
俺らはネコかと、口許をへの字に曲げてたお兄さんたちへ、
指揮者よろしく フリフリと振り回していたネコじゃらし、
ポイとそこらへ投げ出して、

 「おう、俺。セナちびか? どした?」

どうやらあの可愛らしい同級生のお友達からのお電話らしく、
さっさと出るところが素直というか、
こんな激辛坊やにも気を遣う相手っているんだと、
しみじみさせる一瞬だったりするのだが。

 「………へぇえぇ〜〜、そりゃあ上手いこと考えたよな。」

  ……………はい?

 「そりゃお前、そういうのは高見せんせえが一番確かだと思うぞ?」

  え? え?

何だか妙に嬉しそうな会話なのへ、
なのに周囲の恐持てなお兄さんたちが
こぞってドキドキしちゃう相性なのも、ある意味、悲しい習性と言うべきか。
微妙に声をひそめ、だが、あくまでも
“気にしてなんかないさ”
“耳をそばだててなんかないよ”という様子を装い、
お兄さんたち全員が全身で集中しての注目していた構図なの、
ちょいと遠巻きに、苦笑しもって眺めていたこちらさん。

 「…何をやっとるか、お前ら。」
 「あ、ルイさん。」
 「キャプテン。」

校外マラソンで大汗をかいたの、
シャワー室で流して来た葉柱主将。
相変わらずの相性なのへ、
困った連中だねえとの苦笑が絶えなかったらしいけれど、

 「なあルイ、
  王城では、合宿中の電源確保に、
  交替制の自転車こぎで蓄電するらしいってサ。」

 「おお、そりゃあアイデア賞もんだなぁ。」

二ツ折りのケータイ、ぱたりと閉じて。
間近へまで歩み寄って来た黒髪の総長さんへ、
今さっき聞いたばかりのお話を、
なあなあと早速ご披露する子悪魔さんで。
セナくんが言って来たのはというと、

 「この暑さだから、
  そうそう外でのトレーニングばかりって訳にもいかない。
  ジムでの筋トレとか、
  ポジションシフト練習にしても、
  体力保持を考えて体育館でのってことになろうから。
  空調やマシンへの電気がいるじゃんか?
  それを、体力自慢たちが何人かずつ、
  トレーニングかたがたの自転車こぎで補えないかって話になったらしくてサ。」

俺もサ、
ああいうマシンてそういうことへ使えんもんかなって
常々思ってたからサ、と。
大おとなのように一丁前に腕を組み、
そのまま“うんうん”なんて頷いて見せるところが、

 “……かわいいじゃねぇか。”

病膏肓なお人はさておいて。(こらー)

 「それで“高見せんせえ”か。」
 「おおっ!」

この坊やが異様なほどハイテクへ通じてるそのお師匠様であり、
最近は工学のみならず、
家庭菜園から発展してのバイオの世界へも関心をお寄せという、
高見せんせえという博士へ、
効率のいいマシンへの知恵やお力、
借りたらどうだと助言して差し上げたらしいのだが、

 「ウチも導入しねぇか?」
 「う〜〜〜ん。」

いやあのあの、俺ら自転車よりバイクのほうが好きですし、
リーダー、頼むから断ってと、
こそり手を合わせる面子まで出ていたが、
そんな話を後から聞いた、昼飯当番だったツンさん云く、

 『…ウチの電力消費ってのは、
  あの坊主が持ち出すハイテクのあれこれを封じたら
  あっさり30%は削減出来んじゃねぇのか?』

 『あ……………。』


  おあとがよろしいようで………と、
  プールの水に光の網目がゆらゆらと躍ってた、
  梅雨明けしたばかりな、昼下がりだったそうでございます。





   〜Fine〜  11.07.14.


  *言いたかないけど、毎日お暑うございますね。
   小学生くらいのお子さんが、
   時々 表の通りを“わ〜っ”て元気に駆けてますが、
   その元気、オラに ちっとだけ分けてくれねぇか?と、
   いつもいつも思ってしまいます。
   ……若い子の生気吸うなんて、どこの山姥か。
(笑)

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